馬の性別差 完全解説

Q.牡と牝で何が異なるか

A.骨格と筋肉量

 

現代日本で活躍する牝馬の殆どがサンデーサイレンスを内包している理由も解説。

 

人間においても成人の平均身長が男性171cm,女性158cmとあり、勿論180cmの女性もいるわけなので例外的に牡馬顔負けの馬も存在するわけですが、そういう異端な馬は、活躍すると嫌でも名が通る競馬界において数えられる程度しかいないので、今回提示する話は一般論として理解してください。大抵の馬はカバー出来ていると思います。

 

性別差についての一般論を考える目的ですが

1.出資やPOG指名の観点で活用

2.新馬戦の予想で活用

3.適性距離ないし時代全体の把握

4.血統理解による馬場適性読み

などが挙げられます。考え方次第でこれ以外にも使えると思います。

 

先に結論を簡単に言えば 牡馬はスピード持続力・牝馬はキレ性能 みたいな感じです。もっと言えば牡馬はズブい牝馬はズブくないみたいな感じ。

 

・牡馬は牝馬に比べて求められるスピード量が多い

理由

まず馬体骨格から

牝馬の方が線が細く、牡馬の方が内臓含めスケールが大きい。これはオークスとダービーの平均体重を比較すれば数値的に一発で分かる。

牝馬の方が肉体が素軽いためキレ味が強い。身体が軽い方が加速するのが楽=ゆっくり走る→全速力の切り替えが得意=キレ味◎

 

しかし、臓器が大きくないため“スピードの持続力”は劣る(心肺機能に差アリ)。具体的に言えば1F10秒台~11秒前半のようなその馬が持つトップスピードを使える時間が限られる(当然、これは牝馬だから牡馬より劣るという固定観念ではなく、心臓や肺が大きくないからという理由なので、牡馬くらい臓器が大きければそれだけ持続させることは可能になる。ただ、大抵の牝馬は牡馬の平均より小さいため一般的に牝馬の特徴と言える)。

 

これを逆に述べたのが「牡馬の方が求められるスピード量が多い」

←内臓(心肺)がデカいためスピードの持続性に優れてはいるが、肉体全体も大きいために燃費が悪い。身体が大きいとその分動かす筋肉も多いので、単に走るための体力消費量は牝馬よりも多くなってしまう。素軽さが牝馬に劣るためキレ味も劣っている。

その燃費の悪さを高いスピード能力で上回る必要がある。臓器が大きいからスピード能力を長く持続させるための心肺機能は牡馬の方が優れている。

つまり、身体を動かすのに必要な体力消費量を帳消しにする程のスピードで、体力ロスを殺さないといけない。

 

Q.ではスピードとはなにか。スピードはどのようにして手に入れるのか。

A.遺伝

 

・米国スピード父系の需要

芝馬より米ダート馬の方がスピードが必要。これは芝の方が走破時計が速いという点で勘違いしやすいので今一度確認をします。

これは、芝が主流の日本や欧州の競馬とダートが主流のアメリカ競馬のレース質が異なるのが最大の要因です。

日本や欧州のレースは脚を溜めるためにゆっくり走る時間が確実にありますが、米ダートのレースは最初から速く走り最後まで一番バテなかった馬が一着になるレースです。

最近で馴染みのある2023BCクラシックの400m間の公式ラップタイムは以下の通り

 

2023BCクラシック(デルマソトガケ2着)

22.46-23.27-24.55-25.01-27.58

勝ちタイム2分2秒87

 

「最初から速く走り最後まで1番バテなかった馬が一着」について一目瞭然です。例が1つだとこれが例外である可能性が否定できないので、他にも提示します。

 

2022KYダービー(クラウンプライド出走)

21.78-23.58-24.98-26.62-25.65

 

2020KYダービー Authentic

23.20-23.86-23.78-24.16-24.82

 

2016KYダービー(ラニ出走)

22.58-23.14-24.68-25.21-25.70

 

2022BCクラシック Flightline

22.55-22.92-24.15-24.96-25.47

 

2015BCクラシック American Pharoah

23.49-23.51-23.71-24.26-24.60

 

多くなっても話が脱線しそうなので5つほど。このように提示すると後半に連れて時計が掛かっていることがよく分かると思います(2022KYは前半1F平均10.89の超絶Hペースによる最後方一気)。

これだけ明確にバテる要因としてであれば「砂を走っているから」と挙げられますが(当然芝より砂の方がタフ)、ラップを見れば全速力(トップスピード)を持続させた者勝ちというのは伝わってきます。

ちなみに芝でも同じことをしようとすれば出来るとは思いますし芝で走る分だけ走破時計が速くなるはずですが、出走馬全頭が同じ意思で最初から飛ばさないといけないので、前例は今まで一度も無いです。イクイノックスやジャックドールも0.2秒の後継ラップ。(モーリスの2歳馬とかはよく掛かるが、あれはもしかすると基礎スピードがかなり速いだけで、日本競馬がアメリカのようなラップ質であれば走り易いのかもしれない。このような観点で捉えれば、ジャックドールのようなモーリス産駒が心肺機能(スピード持続)に長けていると上手く説明出来る)

 

以上のことより、世界で一番スピードを持続させて走ることに特化した血統は北米ダート血統であるということは理解出来たと思います。

 

・"牡馬で活躍馬を沢山出してるのに牝馬は活躍馬が少ない"種牡馬は米国父系に多い

日本で分かりやすいところはキングカメハメハ系。キンカメはMr.Prospecter系で、ミスプロ系と言えば米国ダートの主流ラインです。

そして、それらの牝馬の産駒はズブくてキレ不足になってしまうから、BMSサンデーサイレンス(以下SS)を入れないと全然活躍しない。牡馬はSS全く入れなくてもG1勝ってるのに。

 

?ズブくてキレ不足とは?

牝馬に米国のスピード血統が注入されたところで、それを持続させるための身体が無いと(臓器が大きくないと)無意味。そして、大抵の牝馬はそれを持っていない!

米国の血筋なのだから心肺機能も受け継がれるのではないか?という疑問もあると思うが、牝馬である以上、牡馬よりも馬格(臓器の容量)が小さくなってしまうため、牡馬と戦った際は絶対的な差が発生してしまう。もちろん例外的に牡馬顔負けの牝馬もいて、スイススカイダイバーやレイチェルアレクサンドラはそういった例に該当する。

また、胴体がデカい場合はキレ味にスピードを活かせるので一瞬の加速ではなく持続的な末脚質になる。(これが全ての本質。本来牡牝に分類する必要のない話なのだが、理解のために牝馬単体で比較すると分かりやすい。スターズオンアースなどはこの例。ここでドゥラメンテ産駒にも言及しようと思う。ドゥラメンテもキンカメ系だが、リバティアイランドやスターズオンアースは母系にSSを内包していない。これはドゥラメンテ自身がSSを持っているという理由も当然ある(リオンディーズでも似たような傾向があるため)が、連年で牡馬にも通用する世代1番手牝馬を輩出しているという点で、ドゥラメンテはスピードを持続させる心肺機能に最も優れた種牡馬と言って良いだろう(牝馬でも牡馬レベルの心肺機能を持った馬が出ている)。だからハイペースに滅法強いし、ダートでも通用する。実際馬体を見ても胴体が抜けてデカイ。ちなみにキタサン牝馬は現状SSクロス必須なので対抗には上がらない。イクイノックス産駒は上回ってくるかもしれないが。)

 

Q.スピードが持続出来ないなら牝馬はどうしたら勝てる?

A.溜めてキレ性能で勝負する。燃費が良いから脚は溜まる

 

先の話で 一瞬の加速ではなく持続的な末脚質 という言葉が出てきたが、これの理解を深めるためにサンデーサイレンスについての定義を設定する。定義をしないと議論を進められないため、仕方なく。

サンデーサイレンスはギアチェンジに伴う加速(一瞬のキレ)に最も秀でている血統』と定義。

すると、ここまでの話から牝馬に都合が良いことは何となく分かるはずだし、SS後継がフィリーサイアーになりがちな点にも回答が出来ていると思う。

 

裏付けるために、まず、SS後継産駒の牡馬ではどういう現象が起こっているか確認する。

キレUP、つまり上がり勝負が得意となると、相対的に時計勝負には弱くなる。末脚は溜める時間が絶対に必要だからである。するとSSだけでは一瞬のキレにばかり長けてしまって、それらの産駒ではスピード不足問題が発生する。(牡馬がキレ性能に長けたとしても、馬格が小さめで素軽い牝馬の方がキレるわけなので、牡馬が牝馬に比べて弱くなってしまう。)

こういった問題に直面して起こったのが2007年のウオッカのダービーであり、ダイワスカーレットとの牝馬二大巨頭の時代があったことで既に証明されている。ここからブエナビスタジェンティルドンナとカリスマ牝馬の時代となる(シーザリオを含めても全て母系が欧州血統!)。この時代の牡馬はオルフェーヴル兄弟が担っていて、オルフェーヴル産駒がダートで通用するのもやはりスピードを持続させる心肺機能に優れていたからだろう。なんならJCでウオッカに勝ったスクリーンヒーローの父系が伸びていて、モーリスから1200mのG1馬やダートOP馬が出ているのもスピードがあったと言える。(カンパニーやトーセンジョーダンからトニービンもそれなりに速いことが分かるので、ドゥラメンテの裏付けになっている。)

 

全体的な牡馬のレベルは牝馬に比べて低くなってしまった!その状況を打破したのが北米ダート血脈の注入である。

 

∴SS後継産駒“牡馬”の活躍馬の大半が、母系に米ダート血統を内包している(Storm Cat,ミスプロ,Deputy Minister,In Reality,Seattle Slew,etc...)

 

米国血統の牝馬が輸入され始めた理由は、牡馬のスピードが足りないと関係者が気づいたからではなく、ディープインパクトの種付け先に困ったという理由が一番だと思うが、結果的に牡馬はそれで大成功となる。そして、現代でも種牡馬として活躍している。

 

SS系×アメリカ血脈の例

キズナ(Storm Cat)

ダノンキングリー、エイシンヒカリサトノアラジンなども同配合

マカヒキ(Deputy Minister)

コントレイル(母系全部アメリカ)

アルアイン兄弟(Seattle Slew)

ジャスタウェイ(異質だが米血)

スワーヴリチャード(アメリカ2本)

etc.

現役ハーツクライ産駒のドウデュース、ダノンベルーガ、ヒシイグアスのスリートップも漏れなく該当。

 

キズナ以降の時代の牡馬で、米国血脈要素が薄いのに活躍した牡馬は、短距離血統を入れることで解決した。スピード不足に短距離馬が入って良くなるのは理解出来るだろう。キタサンブラックの母父が短距離馬のサクラバクシンオーで、サトノダイヤモンドミッキーアイルDanzigなのも合理的。実際Danzigは父系で伸び続けているし、サクラバクシンオーも父系4代で日本の重賞を勝っている唯一の父系である(日本調教馬)。

というか、父系が伸びているのはスピードを持っている血統と捉えて良いです。全世界的に該当します。(エピファネイアだけ少し異質なためこれは別枠でyoutubeとかで話します。)

性差の観点を持つと、これらの話が父系が伸びているかというで解決出来るので便利。

 


で、本題に戻って

米国父系の産駒は牡馬が活躍して牝馬が微妙、牝馬サンデーサイレンスが必須という話

具体例はロードカナロア産駒

カナロア牝馬の産駒成績がそもそも悪いというデータが出ているが、一応代表産駒がアーモンドアイという牝馬なので説明を加えます。ダノンスマッシュやダノンスコーピオン、ファストフォース等々SS無しでも全然活躍するが、対してアーモンドアイを筆頭とするOP級牝馬は6/8がSS内包。イベリスやアンヴァルも戦えてはいるが、重賞勝つには牡馬にスピード持続面で負けている。(イベリスアーリントンCやウンブライルのNHKマイル(雨)を見るに、3歳春まではその辺の性差が少ないとも受け取れる。直近で言えばStorm Cat系のキャットファイトも同様の将来を歩むことになるだろう。)

 

ロードカナロアを例に出しましたが、2024現在の日本競馬で強い牝馬はみーんなサンデーサイレンス持ってますキタサンブラック産駒とかはSSクロス必須ぽいし、キズナ産駒もインブリードし得、ミッキーアイル産駒ですら短距離なのにも関わらずSSクロスして好走。持ってないのロータスランドだけ!

逆に牡馬ではSSクロスを必要としていないし、ミッキーアイルに限っては主戦場がダート1800m。最近はぽっと出のPalace Malice(米国父系)産駒が現3歳牡馬を牽引しているようにSS無しでも当たり前のように活躍しちゃっている。これが牝馬だったら全然強くないだろうと断言出来ます(3歳春までなら通用するか、馬体がデカくて短距離専,牝限のみ)。いつか輸入されたときの結果を見れば分かる。

 

ここで一番最初に述べた話を回収。

現代日本で活躍する牝馬の殆どがサンデーサイレンスを内包している理由 は掴めたと思います。さて、ロータスランドは何故SS無しで戦えているかについては『短距離においては中弛みの脚を溜める時間が少ないのでキレ性能がそこまで求められない』という説明になる。SSについてはキレ性能最強と定義した。

 

では何故サンデーサイレンスがキレ性能◎なのかについては、序盤に述べた「牝馬の方が肉体が素軽いためキレ味が強い。身体が軽い方が加速するのが楽=ゆっくり走る→全速力の切り替えが得意=キレ味◎」に対して都合が良いからSSは牝馬と相性が良いのだろう、それなら一瞬のキレ最強と決めちゃって議論を進めた方が話がスムーズだ!という感じ。摂理として享受する方が健康的だろうというスタンス。

一応、本馬のミオスタチン遺伝子がTT型であることは挙げられます。(ミオスタチン遺伝子は筋肉量に影響する遺伝子で、CC型~CT型~TT型とあり、大まかにCが短距離向きTが長距離向きで、Cが筋肉量多くTが筋肉量少ないといった具合。TT型で筋肉量が多くない血だから脚を溜める時間の体力消費が少ない。中でもSSが断トツで燃費が良いという感じ。短距離馬の方が坂路調教時計が速いことからも筋肉量を窺えるし、筋肉量が多いボテっとした体型が中山でめっちゃ馬券になるのもこの話。)

筋肉量とキレ味の相関について下線部で触れており、一般的に牡馬は牝馬に比べて素軽くないとも述べました。このように短距離馬は筋肉量が多くて素軽いキレよりも馬格が求められており、その理由はそもそも距離が短いので脚を溜めている余裕なんてないから、速いスピードの持続が一番重要なレンジだから心肺容量が多い方が強いということ。つまり牝馬が戦うには牡馬並の馬体が必要というわけです。(ここで例外が1頭、CT型の牝馬グランアレグリア。そもそもTT型のディープインパクトから1200mのG1馬が出るというだけでも異端なのに、それを唯一にして牝馬で制覇したというのが規格外。先述で、牝馬にはスピードを注入しても発揮するための臓器が無いと書きましたが、Tapit注入してバッチリ500kg超で勝ちました。こういう異次元の馬はもう特に牝馬とか気にする必要なし。VM見れば牝馬に敵は1頭も居ないレベルだと分かります。モズスーパーフレアには中京で大外一気して負けちゃったけれど、彼女も500kg級で牡馬顔負けだった。)

なので、太字に下線を引いた通り、TT型のSSはそもそも筋肉量が多いタイプじゃないから身体を動かすのに体力消耗が少ない馬であったこと、そして日本競馬には先行争い後にゆっくり走る時間があり、その状態からギアチェンジして全速力(トップスピード)になるのが最も得意だった、というのが落とし所かなという感じです。Haloがよく小脚の使える血統と言われるのもこの辺りの繋がりが窺えます。

 


筋肉量の多いボテっとしたした体型がめっちゃ馬券になる。

私がよく使う中山体型/急坂体型という言葉がこれに該当します。筋肉の容量が大きいということは一般的な牡馬の特徴であり、一般的な牡馬の特徴はスピードの持続性を売りにすることであるため、米国血統由来のムキムキ体型が速い。勿論筋肉というのはパワーに必要な要素であるので坂に強い。といった具合です。だから一般に筋肉量が多いと短距離~マイラーと言われる訳です。まあ中山でレースを見た後にパドック振り返れば割と理解出来るようになるので、是非(特に500kg超)。私も出来るだけパドックツイートをするようにします。

 

これまで数々の血統理論が生まれて現代まで蔓延っていますが 父系はスピードのある血脈が伸びている という点だけ把握しておけば、血統表を見たときの理解がシンプルで良いです。特に名前こだわって覚えなくたっていいのです。「母父に入って良い血」と言われる父系で伸びていない血はキレや燃費の面に長けていたから という感じに抑えておけば難しくないでしょう。